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金融DXとは?概要や特徴、実施事例、FinTechとの違いをご紹介
目次
デジタル技術の進化や顧客ニーズの多様化により、金融業界では「金融DX(デジタルトランスフォーメーション)」への関心が高まっています。単なるシステム更新にとどまらず、業務プロセス、ビジネスモデル、組織文化の改革を通じて、持続的な競争力と顧客価値向上を目指す取り組みです。
本記事では、金融DXの全体像、特徴、事例、FinTechとの違いを整理し、わかりやすく解説します。
金融DXとは
金融DXとは、銀行・保険・証券などの金融機関がデジタル技術やデータを活用し、業務効率化にとどまらず、業務プロセス、ビジネスモデル、組織体制、企業文化までを包括的に変革する取り組みです。経営戦略とITを連携させることで、顧客価値の創出や競争優位の確立を目指す点が特徴です。
金融DXの特徴や重要視される背景
金融業界では、従来の仕組みだけでは顧客ニーズや市場の変化に十分対応できなくなっています。金融DXは、単なるサービス効率化ではなく、組織全体の再設計を伴う戦略的な変革です。
金融DXが求められる主な背景と特徴は、次のとおりです。
①顧客行動の変化:スマートフォンやオンラインサービスの普及による利便性への期待増大
②競争環境の変化:FinTech企業や異業種の参入による競争激化
③内部課題の顕在化:基幹システム老朽化、部門ごとのデータ分断、DX人材不足
④技術進化:AI・クラウド・データ分析による自動与信や個別サービス提供の可能性
⑤ガバナンス・セキュリティ:サイバーリスクや外部連携リスク管理の重要性
これらを踏まえ、金融DXは「技術導入」ではなく、業務・組織・文化を含む包括的な変革プロセスだといえます。
金融DXの実施事例
地域金融機関の代表的な取り組みとして、常陽銀行の事例が参考になります。同行は「持続的な成長と地域貢献の両立」をテーマに、以下のような施策を進めています。
・人材育成に注力:異業種との交流や仮想企業を使ったケーススタディなど、体験型の研修プログラム(DXリーダーズプログラム)を活用し、現場で使えるDX人材を育成。
・データ基盤とチャネル改革:顧客データを整理・活用できるように基盤を整え、デジタルチャネル(スマホアプリ等)と窓口・地域密着サービスの両輪で価値提供を目指しています。
・地域向けの知見還元:地域企業・自治体向けにDX事例を共有するなど、地域全体のデジタル化支援にも取り組んでいます。
この事例からは、「戦略(何を目指すか)」「人(育成・組織)」「技術(基盤・ツール)」「社会的役割(地域貢献)」を並行して整えることが重要だと読み取れます。
常陽銀行は、DX人材育成を通じて地域金融の持続的成長と競争力強化を両立。実践型プログラム「DXリーダーズプログラム」により、現場経験を通じた学びと即戦力化を実現しています。
金融DXとFinTechの違い
「FinTech」と「金融DX」はしばしば混同されますが、両者は目的と対象が異なります。
FinTechは金融(Finance)と技術(Technology)の融合を指し、主に新しい金融サービスや仕組みを創出する動きを意味しており、スタートアップや新規参入企業による革新的サービス開発が中心となっています。
一方、金融DXは、既存の金融機関や事業者が、自社の業務・組織・ビジネスモデルをデジタル技術で再構築する取り組みであり、FinTechの技術や成果を取り込みながら、組織全体を変革していく動きを指しています。
| 項目 | FinTech | 金融DX |
| 主な焦点 | 新サービス・技術革新 | 業務・モデル・組織の変革 |
| 主体 | スタートアップ/新興プレイヤー | 既存金融機関/金融サービス提供者 |
| 範囲 | サービス・プロダクト中心 | 業務プロセス・組織体制・文化を含む全体最適 |
| 目的 | 利便性向上、新市場創出 | 生産性向上、競争力維持・強化、顧客価値向上 |
| 時期的捉え方 | 革新の初期段階 | FinTechの成果を組織全体に転換・拡大するフェーズ |
つまり、FinTechは“技術による革新”であり、金融DXは“組織全体の変革”といえます。FinTechが金融の新しい仕組みを生み出す一方で、金融DXはそれを企業全体に取り込み、持続的成長と競争力強化を実現するための戦略的取り組みです。
金融DXのトレンドと留意点
ここ数年、金融DXを推進するうえで特に注目されているトレンドと、併せて留意すべきポイントを整理します。環境変化が加速するなか、金融機関が次のステージへ進むために押さえておくべき重要な視点です。
金融DXのトレンド
デジタル化が進む金融業界では、業務効率化だけでなく顧客体験や新たな価値創出が求められています。ここでは、金融DXで注目すべき最新トレンドを整理します。
①生成AI・LLM活用:問い合わせ自動化、ドキュメント要約、データ分析
②クラウド移行・外部共創:柔軟性向上と外部パートナー協働
③ITガバナンス強化:経営層リーダーシップ、統制体制
④新リスクへの備え:不正認証、ディープフェイクへの対応
⑤データ基盤とオープン化:APIや外部エコシステム連携で価値創出
金融DXを推進する上で留意すべきポイント
金融DXのトレンドを最大限に活かすためには、以下の観点に注意することが重要です。
①技術導入と事業・組織の整合性
技術を先行して導入しても、事業モデル、業務プロセス、人材戦略、組織文化と整合していなければ、期待される成果は限定的
②ガバナンスの設計
新技術の導入段階から、説明責任、透明性、倫理、公平性といったガバナンス要素を組み込むことが求められる
③外部パートナーとの協働管理
ベンダーやパートナーとの協働においては、統制・監督体制、契約条件、責任所在を明確にすることが不可欠
④データ活用のリスク管理
データ活用にあたっては、プライバシー保護、倫理的利用、バイアス対策を徹底する必要あり
⑤既存システムとの整合性
既存のレガシーシステムを無視した新技術導入は、逆に複雑性や運用コストを増大させるリスクあり
このように、金融DXを次の段階へ進化させるには、単に技術トレンドを追うのではなく、リスク管理・ガバナンス・ビジネス変革の観点を横断的に設計・実行していくことが重要です。
金融DXで押さえるべきポイント ~技術だけでなく、人と組織を変えることがDX成功の鍵~
金融DXは、単なるシステム刷新ではなく、業務・組織・文化全体を変革する取り組みです。技術だけでなく、DXを推進できる人材育成も不可欠。体験型研修や実践プログラムを通じ、現場で使えるスキルとマインドを養うことで、持続的な成果と競争力強化が可能になります。
技術トレンドの活用だけでなく、「誰が・何を・どのように変えるか」を戦略的に設計し、組織全体で実行することが、金融DXを次のステージへ進めるポイントといえるでしょう。
金融DXを実現する人材を育成するには?
金融DXはFinTechの成果も取り込みながら、組織全体を変革し、持続的な成長と競争力強化を実現するフェーズを指します。成功には、常陽銀行の事例のように、戦略、人材育成、データ基盤、社会的役割を並行して整備し、特にDXを推進できる人材を実践的なプログラムで育成することが不可欠です。
パソナデジタルアカデミーでは、そんな金融DXに有効な「DXリーダーズプログラム」を提供しています。現場経験に基づき、データ分析やAIなどのデジタル技術を戦略的に活用し、レガシーや慣習を変革できるビジネス変革リーダーを育成します。
金融業界からご参加くださった、常陽銀行様の声をご紹介します。

実務的なDXリーダーを育成することを考えると、DX化の進行プロセスの全体をイメージでき、ビジネスサイドと開発サイドの両方の立場も一定程度理解していることが必要です。
組織内部での育成に偏ると特定の情報や企業固有の文化に染まってしまう部分があるので、他流試合をやることがすごく大事だと思っています。
本業を離れることなく外部出向に近い体験や業務習得といったものができそうだ、というところに期待を寄せて初回参加に至りました。
事例を学ぶのではなく、身近な課題を自ら見つけ、解決まで考え抜く実践的なカリキュラム構成です。新たな価値を生み出す「ビジネスアーキテクチャデザイン」、他者の協力を引き出す「リーダーシップ」に主眼を置き、各分野の第一線で活躍する講師陣から、最新の内容を網羅的に学びます。
\ DXリーダーズプログラムについてもっと知りたい方 /
■編集後記
金融DXは技術導入だけでなく、業務・組織・文化を包括的に変革する取り組みです。生成AIやクラウド活用により業務効率化や新価値創出が可能となる一方、DX人材育成が成功の鍵となっています。体験型研修や実践プログラムを通じ、現場で使えるDXスキルとマインドを育むことで、金融機関全体の変革を加速し、持続可能な競争力強化につなげられます。