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DXリーダーズプログラム
常陽銀行の持続的な成長と地域貢献を両立させるDX推進。実践・経験を通じてDX人材の育成を実現する~体験型DX人材育成「DXリーダーズプログラム」~

目次
常陽銀行様はめぶきフィナンシャルグループの中核銀行の一つとして、「健全、協創、地域と共に」を経営理念に掲げ、地域に根差した事業を展開されています。DX推進に関しては、単なるデジタル化ではなく、地域金融機関としての役割を維持・強化しつつ、持続的な成長と地域貢献を両立させることを目的として、積極的にDX化に取り組まれています。
今回は、DX推進に対する戦略や方針、DX人材育成などについて、経営企画部 副部長 兼 DX 戦略室長の丸岡 政貴氏にお話を伺いました。

株式会社 常陽銀行
事業内容:銀行業
従業員数:3,007人(2025年3月31日現在)
取材対応:経営企画部 副部長 兼 DX戦略室長 丸岡 政貴氏
DX化によって「地域社会・地域経済の発展への貢献」と「お客さま中心主義」を推進する常陽銀行

―まずは、事業内容や特徴を教えてください。
丸岡氏:
常陽銀行は、茨城県およびその周辺地域を主要地盤とする地方銀行です。めぶきフィナンシャルグループとしての2025年3月末のグループ全体の預金残高は17兆円を超える規模となっています。2024年の『帝国データバンク「全国企業メインバンク」動向調査』では、全国の地銀グループの中で全国2番目のメインバンク数となりました。茨城県の人口は約280万人ですが、1人当たりの県民所得は全国3番目と高く、産業的には、農業・漁業・工業などで全国トップクラスを誇っています。こうした環境の中で事業活動を行っており、2024年度は地方銀行協会の会長行として地銀界全体を牽引する役割も務めさせていただきました。
「ペーパーレス」「デジタルチャネルの利用の浸透」「データ基盤の整備」の3本柱でDXを推進
―DX推進に対する戦略や方針について教えてください。
丸岡氏:
DX戦略を体系的に取り組み始めたのは2022年からで、その時にDX戦略室を立ち上げ、同年に「DX戦略ロードマップ」を策定しました。現在はそこから3年ほど経過したところです。
基本的には中期経営計画と足並みを揃えた形で戦略を立てていますが、DX領域は技術的に進歩が早い先進分野もあれば、長期的に見なければいけないインフラ整備などもあるため、中計期間の3年に拘らず総合的かつ柔軟に考えなければなりません。中期経営計画とある程度の平仄を合わせつつも、短期で機敏に方向性を変える部分と、長期でしっかりと基盤を固めていくところを両輪として回せるような戦略設計にしています。
DX戦略ロードマップに組み込んでいる戦術や施策は様々ですが、最も戦略遂行に必要な成功要素として3本の柱を立てて諸施策を展開してきました。「ペーパーレス」「デジタルチャネルの利用浸透」「データ基盤整備」の3つで、KSF(キーサクセスファクター)と呼んでいます。この3つは様々な個別施策に共通する「重心」「ツボ」にあたるものです。これらの進捗を管理することが、DX戦略の進捗度を測る指標にもなっています。
丸岡氏:
1つ目の「ペーパーレス」に関しては、2021年度と比べて年間約7,000万枚を削減し、非常に削減効果が出たかなと思っています。もともと年間1億500万枚の紙を使っていたところから、今は3,000万枚ぐらいになったので、コスト削減もそうですが、CO2の削減効果もかなり大きくて、CO2削減効果としてプレス発表を行いました。DXはデジタルトランスフォーメーションですが、グリーントランスフォーメーションの側面もありますので、ここはサステナビリティの担当部署とも連携しながらやっています。
2つ目の「デジタルチャネルの利用浸透」に関しては、バンキングアプリや通帳アプリなどを利用するデジタル顧客の割合が個人のお客様の半分程度まで浸透できました。お客様が時間や場所を気にせず便利に銀行取引ができるセルフサービス化が進んだと思っています。
このように、これまで紙だったものがデータに変わり、取引行動もデジタルチャネル化したことによってデータがログとして貯まるようになりましたので、クラウド上に拡張性の高いデータ基盤を新しく作り直しまして、MAやBI環境も整えました。こうして3つ目の「データ基盤整備」も当初の計画どおり進捗し、一段落したところです。
これらの3本柱についてはこの3年でKPIを超えてきたので、2025年からKSFを「AI活用」に変更しました。今後は生成AIやマシンラーニングなどに軸足を移していきます。データ利活用を通じて経営判断の意思決定をより正確かつ迅速にしていくほか、企画立案のスピードアップ・レベルアップ、営業活動の生産性向上などを進めていきたいと考えています。
デジタル化というと、どんどん自動化して人が要らなくなるような印象にも映りがちですが、我々の考えはむしろ逆です。事務手続などの煩雑なやり取りをスリム化することによって、「おもてなしに富んだ、人と人との血の通ったコミュニケーション」に十分な時間が割けるようになることが、本当のデジタル化の大事なところだと思っています。
丸岡氏:
2つ目の「デジタルチャンネルの浸透」に関しては、バンキングアプリや通帳アプリなを利用するデジタル顧客の割合が半分程度まで浸透でき、セルフサービス化が進んだと思ってます。
このように紙からデータに変わり、取引もデジタルチャンネル化したことによってデータがログとして貯まるようになりましたので、クラウド上にデータ基盤を新しく作り直して、3つ目の「データ基盤の整備」も3年間の中で終えたところです。
3本柱は期待していたKPIを超えてきたので、今後は生成AIやマシンラーニングなどの利活用をしっかりと強化して、経営判断の意思決定をより正確かつ迅速化、企画立案立のスピードアップ、営業活動の生産性向上などを進めていきたいと考えています。
デジタル化というと、どんどん自動化して人が要らなくなるような印象になりがちですが、我々の考えむしろ逆です。今まで事務手続きだったりとか煩雑なやり取りをスリム化することによって、おもてなしに富んだ、血の通った人と人とのコミュニケーションにより時間が割けるようになることが本当のデジタル化の大事なところと思っています。
丸岡氏:
何でもかんでも自動化してネット専業銀行のようになるのではなく、我々は地方銀行として地域にコミットしていますので、最終的には地域経済がきちんと成長するような取り組みになるよう意識しています。具体的には、自らが地域企業の皆様の手本になったり、当行のネットワークを通じて有益な情報を地域に還元したり、個別企業のDX支援をしたりといったところを進めています。金融機関としての中立性をうまく使いながらIT製品の選定などもやっていけたら、地銀が企業のデジタル化を進める意義が高まるのではないか、という考えでやっています。
DX推進に欠かせないDX人材育成には、実践と異業種や外部との交流の体験が重要なポイント

―自社のDX推進だけではなく地域全体を考えて、地域の企業様へのDX支援も注力ポイントでしょうか?
丸岡氏:
DX支援に向けては、まず人材育成としてITコーディネータの「ケース研修」を中核的な研修として位置付けています。この研修では、仮想の中小企業を想定し、実際にどういう経営支援・DX支援をしたらいいのだろうかといった議論を何回も練り直して発表するグループワークがあり、地域企業に日頃から接している営業店メンバーの多くがこれに取り組んでいます。こうしたDX支援に向けた人材育成の取り組みは、ITコーディネータ協会様の協会誌でも好事例としてご紹介いただきました。また、当行のDX支援の取り組みは経済産業省の『「デジタルガバナンス・コード」実践の手引2.0』にも伴走支援事例として取り上げていただいており、外部からの評価が高まってきています。地域企業の皆様へのDX支援は、DX推進の注力ポイントとして取り組んでいきたいと考えています。
―様々なDX人材育成を進める中でパソナデジタルアカデミーの「DXリーダーズプログラム」を検討された背景やポイントを教えてください。
丸岡氏:
DX人材育成というと、資格取得による「知識ベース」でのDX人材認定をしている企業さんがたくさんいらっしゃるのではないかと思います。しかし、日常の実務で活用しなければ知識は忘れてしまいますので、日常の営業活動や本部企画での実践結果(実務ベース)も認定基準に加えています。また、これらを牽引する「実務に精通したリーダー層」をきちんと育成する必要があると思っています。実務的なDXリーダーを育成することを考えると、DX化の進行プロセスの全体をイメージでき、ビジネスサイドと開発サイドの両方の立場も一定程度理解していることが必要です。このため、知識だけでなく、ある程度は実務経験も評価して認定する必要があると考えました。
「実務と知識の両方をバランスよく育てる」という考え方で行内の育成体系に仕組みとして組み込み、それに加えて「自分もやってみたい」と思ってもらえるような、魅力あるものにしていくところがすごく大事だと思っています。
DX人材育成に外部サービスを活用する背景については、組織内部での育成に偏ると特定の情報や企業固有の文化に染まってしまう部分があるので、「外の釜の飯を食う」と言いますか、他流試合をやることがすごく大事だと思っています。外の刺激を受けることで新しい発見もあるので、研修内容以上に効用は大きく、外部企業に1年間出向させるようなトレーニー派遣を毎年行っています。こうした出向派遣は継続的に続ける方針ではあるものの、1年もの間貴重な人材を外に出すため、業務リソースのマイナス影響が大きいことも悩みどころです。この研修のように平日夕方や土曜日を活用した「インターバル研修」というスタイルは非常に有用と感じており、今後も組み合わせて活用していきたいと考えています。
―パソナデジタルアカデミーの「DXリーダーズプログラム」への参加に至った経緯や決め手となったポイントは何ですか?
丸岡氏:
1番大きかったのは、本業を離れることなく外部出向に近い体験や業務習得といったものができそうだ、というところに期待を寄せて初回参加に至りました。出向ですと1年ぐらい本業から離れることになりますが、パソナデジタルアカデミーの「DXリーダーズプログラム」であれば、程よくインターバルで時間を取りながら進められます。実務から完全に離れはしないけれども、かといって1回だけで終わってしまうような、忘れてしまうような研修ではないので、そこの距離感というかインターバル感がすごくいいなという風に思っています。
多角的な視点や考え方がすごく大事だと思っているのは先ほどお伝えした通りですが、初回参加して1番いいなと思ったポイントは、多様な業種業態の方と一緒に参加して切磋琢磨できるという点です。そこは行内の研修では絶対経験できないですし、外部の講師をお招きしても実現できないことです。めぶきフィナンシャルグループ内で足利銀行と合同研修を行うケースはありますが、それ以上に異業種の方々の着眼点とか文化に触れるというのはすごく刺激になるなという風に感じました。アルムナイ制度によって人脈関係が継続的に続くという点もいいですね。
―実際に研修に参加された方に対する、社内からのフィードバックや感想をお聞かせください。
丸岡氏:
研修に参加した部下の成長はいかほどかと思いながら研修最後の発表会に出席したのですが、めちゃくちゃ成長していました。発表スライドの構成や説明もそうですし、その見せ方や伝え方、企画の組み立てや課題発掘の着眼点なども、受講前とは雲泥の差だったのが印象的でした。
ある受講メンバーが研修終了後に別の部署に異動したのですが、新しい部署の上司に話を聞いたところ、そのメンバーの企画書の内容が良くなったなどの変化が見られ、今はその部署の業務改革に携さわっているようです。この研修の効果がすべてではないとは思いますが、少なくとも課題の抽出の仕方などは研修を通じて身についたものが活かせているでしょう。研修の経験のなかでインスパイアされた部分も含めて、研修をきっかけに成長したと評価していいのではないかという風に思っています。
―最後に、DX人材の育成に関する方針や意気込みなどを教えてください。
丸岡氏:
DXはブームのように言葉が独り歩きしているところがありますが、今後は当たり前になっていかなければいけないものだと思っています。行内でも、私は「DXを特別視するんじゃない」とよく言っています。例えば、Word、Excelなどの当たり前の業務スキルの中に、我々がDXと呼んでいる技術や考え方が常識になっていくのが当然と思っているし、そうしていきたいと思っています。これは我々だけの話でもなくて、日本全体がそうならないと経済が元気にならないですし、全体が元気になることで結局私企業も恩恵を受けることになると思っています。我々が自行事例を発信したり、パソナデジタルアカデミーさんがこの研修を色々な業種の方をお呼びして実施されていることは、すごくいいことなんだろうなと思います。
DXを推進する中で、ビジネスアーキテクトといわれるDX人材については、7割方は行内で育てていきたいと思っています。様々な配属の中で、「私はデジタルに興味を持ち始めました、やってみたくなりました」という時にチャンスの門戸が開いていないのはよろしくない。銀行本業をちゃんと分かっている人材がデジタルを組み合わせた時にどういう化学変化が起きるのかという期待として7割、一方で、外部から人材が入って来ることによって、外の風・外の文化・異なる考え方が入ってくることによる変革期待に3割、これが私の理想のバランスです。今後もメンバーの個性や特性、組み合わせ等を見極めながら、組織のDXを牽引し、ひいては少しでも世の中が良くなるように微力ながら貢献したいと思います。
編集後記
「ペーパーレス」「デジタルチャネルの利用浸透」「データ基盤整備」の3本柱でDXを推進されてこられた常陽銀行様では、自行内または自社グループ内という銀行事業の中だけでは、ビジネスアーキテクトと呼ばれるようなDX化のリーダー育成を行ううえで「多様な視点や視座を得る」という観点での育成が難しいという課題を感じられていました。
その打開策の一つとして、異業種企業の受講生との交流と実践を伴うパソナデジタルアカデミーの「DXリーダーズプログラム」を活用していただきました。
仮想企業を使ったケーススタディ研修や外部企業への出向など、DX人材育成に関してITコーディネータ協会様や経済産業省などに好事例として取り上げられる取り組みを既に実践していらっしゃる常陽銀行様が、パソナデジタルアカデミーの「DXリーダーズプログラム」に非常に大きな期待をもって頂いていることがよくわかるお話をいただき、さらなるプログラムの向上を目指していかなければならないと感じました。
ビジネスアーキテクト人材育成「DXリーダーズプログラム」
パソナグループは、「DX人財を10,000名育成する」という目標を掲げています。DXは単なる技術的な挑戦ではなく、全ての働く人々に「もの創りや協働の楽しさやワクワク感」をもたらす革新的な方法論です。このビジョンを実現するため、技術とニーズを結び付け、新しい価値をデザインする企業間交流型プログラム「DXリーダーズプログラム」を開催しています。
DXリーダーズプログラムでは、自社のビジネスや組織を変革に導けるリーダー人材を育成します。ビジネスアーキテクチャーデザイン、ファシリテーション、リーダーシップ、生成AI・データ活用といった、DXをリードする存在に欠かせないスキルを網羅したカリキュラムです。ビジネスアーキテクトの育成としてもご活用いただけます。
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